彼女の、たった一つの遺作──「ガーネットの涙」。
それが美術館に収蔵されることになった。僕はどうかこれだけは自分の手元に残させて欲しいと懇願した。お金も、知識も、名誉も君たちに譲ろう。だからそれだけは僕から奪わないでくれないか。 彼らは口を揃えてこう言った。
「このペンダントは素晴らしい美術品だ。コレクター様に選ばれたのだ。たくさんの人々の前で輝くべき品。君にその機会を奪う権利は無い。」
それから青年は毎日のようにそれに会いに美術館へ行った。
「ここは嫌な場所だよね。寂しいよね。 大丈夫、必ず迎えに行くよ。」
いつしか青年が美術館へ足を運ばなくなった数年後、一通の手紙が届く。
─── 今宵、あなたの涙を頂きに参ります。
そう郵便屋の少女は微笑みながら歌った。